2017年2月18日土曜日

時の視覚化


(sujet principal : les travaux de Aiko Miyanaga à Nara)
前回前々回と続くことになった日本女性作家三傑の最終回、「気配の痕跡を用いて時を視覚化する」* 宮永愛子の巻。
これは現在開催中ではなくて、、、

昨年の秋の帰国時開催されていた愛知トリエンナーレの美術部門が面白くなかったことは既に書いたが(16/10/24)、同時期に奈良でも「古都祝奈良」というイベントがあり、知り合いと遠足、そこで宮永の作品を見た。

ツタに覆われた壁がいかにも歴史に忘れ去られたという風情の布の染物屋の倉庫跡。入ると黒い地面に机と道具が置かれていて、トタンの錆も何とも言えぬ味わい、場所の魅力(?)のみと思いきや、天井を見上げるとまだらに淡い色彩の付いた布がぶら下がっており、机、道具のある所は影の様に色ぬきになっている。この奈良の企画はどこでもちゃんと「説明員」がいて、天井の布は地面に染み込んでいた染料を机の上にあるガラス瓶の中にあった「酢酸」で布へ吸い上げたものとの解説を受けた作品解説サイト


私が彼女の作品を初めて見たのは、塩田千春、内藤礼に比べると最近で、2008年、小学校がアートセンターになった京都芸術センターにて。海外からのアーティスト・レジデンスもしているとのことで、殊勝にも友人作家のF君とJ君の資料を携えて宣伝にでかけたときに丁度個展がなされていた。塩が結晶した糸が張られた空間、もう一つはと時間とともに消えて行くナフタリンのオブジェを飾った空間。その頃私は野外設置で自然に朽ちればよしとする作品制作を多くしていたので、勿論ナフタリンのアイデアにはとても共感を覚えたが、ちょうど「塩のドローイング」の第一期の作品も名古屋のLギャラリーで見せていたところだったので一瞬「やばい!」、宮永愛子は他に何をしているのだろうとかなり心配になったのだった。
だからその後結構フォロー(というか彼女がますます活躍し出したにすぎないが)、 パリの日本文化会館、愛知トリエンナーレ(2010)、そして去年の秋は奈良に加え、京都のセンターも見た。京都では塩田千春とモチーフとして共通するような鍵の秘められた鞄のほか、ウユニ塩湖やソルトレークなどの塩スポットを旅行した写真があって、「あれ、またやられちゃった」(?)という感じだが、人から海水も岩塩ももらっている私には大旅行の余裕はないので、ここはあっさりコンセプトの違いということにしておきましょうか(笑) こういう風に、おこがましいが、私と彼女の作品とは重なる所が多くて、自分のことを書いてしまうのでコメントしにくいのだ。

さて話を奈良に戻すと、「塩、ナフタリン、それに酢酸かー、化学に強いのだなー」と感嘆したのだが、フェースブックの彼女自身の投稿によると酢酸ではなく水で色素を地面から引き出したとのこと(「酢酸」は私に同行の二人も同意してくれているので私の空耳ではありません)。何れにせよ彼女は染色屋倉庫跡のただの黒い地面からその場のかつての歴史を見事に抽出・発掘した。素晴らしい発想ですよ。サイトスペシフィックと唱える作家は多いけど、こういう風に本当の意味で「場所固有」な作品ができる人はなかなか少ないですので。

この「古都祝奈良」というイベントの美術部門では、他には黒田大祐の神社の石が長い人生(笑)を語ってくれるサウンドインスタレーションが奇想天外で可笑しかったけど、地味と言うか、あれをつきあって聞く人は少ないかも。西尾美也の古着とそのボタンを使った作品はキレイだった。展示スポットが離れて点在していて不便と言えば不便だが、愛知トリエンナーレみたいにやたら多くなく、町並みを巡っての作品探しは楽しかった。見た作品がハテナ?でも観光で許してしまえるところがあるのはやはり奈良と言う街の魅力ならだろう。但しお寺の拝観料には閉口しましたが、、、。
 
黒田大祐、西尾美也の作品も宮永愛子の作品も「なかまちアートプロジェクト」という部門でこのリンクのページから作品が見られます

(注意:「古都祝奈良」は10月23日で終わっています)

* 注:これはインターネット検索で再三現れる言葉の引用。「気配の痕跡」ってのがわかるようなわからないようなで、いかにも日本的? 

ところで今パレ・ド・トーキョでタロー・イズミという日本人男性作家が大規模な展示をしています。続けて取り上げた3人の女性作家の東洋的世界観でも村上などのオタク路線でもない、日本的なところを感じさせない不思議でダイナミックな作品に驚かされました。また書こうと思いますが先ずは推薦です。(5月8日まで)

最後に日本離れした私の心を揺さぶる修学旅行生の靴々々:これ自体で日本を表わすインスタレーションになっているような、、、



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