2015年10月24日土曜日

不可視を描く

昨日の続きで、アートフェアなんか行かなくても良い理由、その2

例えばオペラ座から近いサン・ロッシュ通り(rue Saint Roche)の二つの画廊で開かれている「不可視を描く」(Dessiner l'invisible)展も楽しめる。
アーティストが「不可視を描く」のは当たり前じゃないかと私は思うのだが 、こんなテーマで展覧会がされるのだからそれほど明白なことではないのか? 何れにせよシュールなものやナイーヴ、アウトサイダー、それにコンセプチュアルまで、結局は当然ながら何でもありで、、、。



その圧巻はエミール・ティザネ Emile Tizané という1930から54年にかけて幽霊屋敷とかの「超自然現象事件」を調査した憲兵将校の資料。
右写真は引き出しがA地点からB地点に飛んだという事件の報告書(他の日には椅子が飛んだりとか等々、同じ場所で何度も起きて、、、)。この憲兵さん、その当時は本を書いたりして有名だったらしいがその後忘れらていたとのこと(wikiもなかった)
これは番地がそのまま名前になっている24BIS画廊の地下室スペースにある。


ティザネの調査書と制服
この地下は空間も面白いが作品も良いのが多く、有名どころでは、暴力性のあるエロ+シュールの Hans Bellmer ハンス・ベルメール(ウィキ)の、紙とはちょっと味わいが違う絹に刷った連作版画「告解室の秘密」。ベルメールなど見飽きてると思っても、いやはや、その構成力と線の力にはうならされるものがありました。この二つだけでもオペラ界隈に行くなら寄り道の価値があるでしょう。

他に細かい線の仕事ではMuriel MoreauやCamille Grandvalとか、私が全く知らない若手作家が幾人も発掘できた。
それから「これってアニメの『ペルセポリス』のイラン出身のイラストレーターかしら」とちょっと思ったのは韓国のMoonassi(80生)、彼(彼女?)の描く不思議なデッサンが沢山並んでいた。確かに人気ありそう。他にはAnaïs Tondeurのチェルノヴィリの被爆した植物の「放射線写真」というものも。

Moonassi
23番地の小さな画廊の方は現代の作品とドキュメントがごちゃごちゃして判り難い。面白いなーと思ったら、いつもそれは Athanase Kircherの理論や発明の図説だった。彼、アタナシウス・キルヒャーは、17世紀にローマにいながらにして世界中の宣教師の情報を一手に集め、博学な研究をしたイエスズ会司教だった。帰宅してウィキを読んでいて、昔歴史研究の本の訳の下請けをした時名前が出て来たのを思い出したが、この人も当時は学界の権威だったのに20世紀後半まで忘れられていたとか。

この展覧会は11月15日まで。二つの画廊のほか、礼拝堂でパーフォーマンスなどもある。
情報はこちら

2015年10月22日木曜日

人工気候

やっぱり楽しい参加型
今週はパリのアートフェア FIAC が開かれている。例年の事情(?)は2011年のこの記事でも参考にしてもらうことにして、それに独立して、または関連して、何れにせよ同時開催のメリットがあるのだろう、この時期は沢山の展覧会が催されている。だからパリの「現代アート週間」という感があるが、コレクターではなくただのアート愛好家なら混雑するフェアに行くより他に行った方が面白い。

例えば

EDF(フランス電力)財団で催されている Climats artificiels(複数なので「諸人工気候」と訳すべきか)という題の展覧会。雲の中に入る体験型や、ハイテクでクールな作品があれば、一昔前の工藤哲巳(参考解説)のけばけばしい色の性器が植わった菜園のようなグロな作品もある。
私は一瞬アルプスの写真かと思われるのが、「実は作家 (Julien Charrière) が工事現場の盛り土(?)のような場所で石灰(小麦粉?)を撒いていたのでした」という種明かしがビデオであるのが気に入った(右写真)。

美術館内に自然を再現する作品は、概してイタリア60年代後半のアルテ・ポーヴェラ(13/6/14参考)の焼き直しという気がしますが、美術通の皆さん、いかがでしょうか?

写真のピーナッツの殻はマリーナ・アブラモヴィッチMarina Abramović(ウィキ)の「雲の影」という作品。エモーショナルな神話的パーフォーマンスや神秘性に満ちたインスタレーションで「現代アート」ファンに絶大な人気のあるアブラモヴィッチは私が最も苦手とするアーティストの一人で、「私の作品がわからないなんて感受性ないんじゃない?」と言われているような気にまでさせられてしまうほど「大上段」な彼女だが、 こんな遊び心ある作品もあったとは。

アブラモヴィッチに劣らぬ私の苦手作家のヨーコ・オノもありました。カメラが空を撮るSkyTV(1966)。

前述の雲は日本の建築家、近藤哲生の作品で「圧力と温湿度が異なる3つの空気層をつくりだし、人工的な雲を発生している」そうで、すごいですねー。でも山登りで味わうような感動は皆無だけど。

雲の中より
結局この比較的小さな展覧会で3人も日本人作家がいた訳だが、 Espace Comminesというパリ三区の会場でも大西康明と盛圭太という若手作家が大きくかつ繊細なインスタレーション作品を発表している(残念ながら写真を撮らなかった)。
今調べたらこれは明日(金)午後3時まで! 
L’Espace Commines, 17 rue Commines 75003 Paris

「反原発」の私ですが、EDF財団はいつも良質の展覧会をする。お金はあるし(勿論入場無料)、12月のパリでの国際環境会議を睨んでの企画なのでまだまだ続き、2月28日まで。情報はサイトをご参考に(英語もあり)

2015年10月18日日曜日

「空き缶人間」との遭遇

昨日は名古屋からアートファンのSさんが来たので少し付き合うことにしたが、折角だから日本人が入手する「普通の情報」に入らない展覧会をハシゴすることにした。
現代アートからアールブリュット、そして職人アートのオープニングを見て、そろそろご飯にと思って歩いていたところ、妙な「空き缶人間」に遭遇! 
なんだこりゃ? この巨体なデブ衣装を作るのも結構スキルが要りそうだが、ガチャガチャ音をたて、ちょっと踊ったり、カフェの客にちょっかいをだしたり、かなり楽しいパーフォーマンス。そして「お金」を募るような気配も全くなく、どんどん歩いて行ってしまって、、、。

今日グーグルしてみたところ、これはストラスブルグの美術学校で Eddy Ekete、Désiré Anmani などの西アフリカ出身の若いアーティストが考え出した「空き缶人間」(Homme Canette)というパーフォーマンス現在ではダンサーなども入れて7人ほどのグループを成しているらしい )。私は「ナマハゲみたいだなー」というのが第一印象だったが、「消費文明批判」は勿論、アフリカの呪術的要素も持ち合わせ、結局昨晩見た中で一番面白かった! 脱帽です。
某芸術学校のサイトによると「イベント」用のパーフォーマンスらしいが、出会ったときは「仕事帰り」だったのか あるいは「出勤途上」だったのか?


10/19記:「空き缶人間」からコメントがあり、少し書き替えました。ビデオとしてはStrassTVによる次のリンクのビデオがパーフォーマンスの模様および作家紹介もあり充実しています
http://www.dailymotion.com/video/x1sbaoa_les-hommes-canettes-a-strasbourg_creation 

2015年10月12日月曜日

窓ぎわのトッドちゃん

フランスの人口論学者エマニュエル・トッドのインタビューを集めた新書を貰って、帰途の飛行機の中で読んだ。フランスでは1月のテロ事件以降、トッド氏はうさんくさく見られることが多くなったと思うが、私はちゃんと彼の本を読んだことがないので、彼の理論を知りたい方はウィキにもしっかり要約されているのでご参考を。
この「ドイツ帝国が世界を破滅させる」とセンセーショナルな題がつけられた本だが、インタビューなのでとても大雑把。私は全くドイツ通でないので本当に彼らが「支配的状況にあるとき、非常にしばしば、みんなにとって平和でリーズナブルな未来を構想することができなくなる」(彼は歴史が物語っていると言うが、、、)という特性を持つのかよくわからない。確かにユーロの危機に際して自国の経済倫理を絶対と押し付けているが、これはヨーロッパの当初の「合意」もあるし、それが世界レベルになりうるかも疑問だが私は経済通でもないので、、、。それから「地政学的には‥」という指摘も多かったが、7/19の投稿の末尾で書いたように、私は「地政学では何故すべての利害の対立が常に紛争に帰結せざるえないのだろう」といつも根底的な疑問を抱いているので何をか言わんや。

それなのに何故この本を紹介するかと言うと、フランスのことに関してはなかなか妙を得た指摘が幾つもあって、例えば2013/4/13「大臣の告白」の脱税していた財務大臣のカユザックに関し、
「私でも、医者のくせに病気にかかった人々の治療を目指すより、せっせと植毛クリニックの営業にいそしむカユザックのような人物に会ったら、こいつは金の亡者に違いないと勘づいただろう。ところがオランドは、そんな医者を大臣に抜擢した。いくらなんでも倫理的におかしんじゃないか。カユザックを選んだと言う事実が示唆するのは大統領が倫理的能力を不十分にしか持ち合わせていないということだ」とか、本当だよね〜(大笑い)。
そしてオランドの失敗:まず第一は「税率75%を強行することができなかった。大統領には国民投票という武器があるのに、彼は勝負にでなかった」というのは私も全く同感(旧ブログ2013/3/4参考)

他に自分の覚書き的に抜粋すると、
「金融権力(金融を統治する権限ということだと思う)はもともとは廉直で愛国的なドゴール主義の高級官僚らの手中にあったのだが、それが民間セクターに移行した。唯一保存されたのがシステムの超集権的性格だった」
「フランス人は普遍性を重んじるあまり特殊性が見れなくなる」(引用メモを忘れたのでこれは私なりの言い替え)、加えて 「自分たちの道徳観を地球全体に押し付けようとするアグレッシブな西洋人は、自分たちの方がどうしようもなく少数派であり、量的に見れば父系制文化の方が支配的だということを知った方がよろしい」とか。

つまりフランスに関してはなるほどと思うので、ドイツおよび世界状況についても彼の論は正しいと思うのが一応筋なのだが、、、やっぱり住んでない国のことはわからんです。(最近私は日本のこともすっかりわからない。私はこの本のメインではないフランス政治のことで楽しめてしまったのだが、日本の読者はカユザックとかオランドへのコメント、わかるのかなァ? 10万部突破ですよ! 本当に不思議) 読書後の結論、強いていえば、トッド氏も私も結局のところフランスが好きだということでしょうか。



過去の関連投稿
2015/7/19「戦争放棄を放棄してはいけない理由」
2013/4/13「大臣の告白」
2013/3/4「スポーツとしての資本主義」



2015年10月11日日曜日

ミュルミュル 英三のライターデビュー


今年の初めは珍しい経験をした。先ずは郊外の町のビエンナーレの審査員。「その町以外のアーティストにも扉を開くので」ということだったので、町の 知りあいアーティスト達を選別することはないのだろうと思っていたのだが、送られて来た書類は町の内外を問わず、幾人もの友達の応募書類も入っていた。日頃は日本人的に気を使う方だと思っているが、こういう場合には「私の芸術尺度」に合わせて容易く、私情を全く差し入れずに評価できてしまう。だから選考会議は簡単だったけど、その結果が発表され、私の名前も出ていたから、友達から さっそく電話がかかってきて、日本に発つ前日だと言うの我が家に「状況説明」を求めてやって来た。これには参った。私なんぞ、自慢じゃないけど「落選」の 王様、例えば今年の夏にカタマラン(ヨット)に乗って航海しながら制作する「まさに私の海水のデッサン向き」としか思えないアーティストレジデンスの企画で落とされた。がっかりするけど憤るほどのことはない。企画側の意図もあり、適・不適であって良し悪しではない。加えて人の趣味は十人十色。

第二は4月、生まれて初めて受けた文章の「注文」。

愛知県のみなさん、ミニセレと書かれた写真のような愛知芸術劇場のチラシがあったら見て下さい。私のその文章が載っています!
5月12日の記事に書いたヴィクトリア・ティエリ・チャップリン演出の舞台「ミュルミュル ミュール」の紹介文。
ヴィクトリアさんの舞台を見ているからということで依頼を受けたのが4月。でもこの、娘のオレリア主演の作品は見たことがなく、だが5月の舞台後では遅すぎる(1年間分のプログラムのパンフレットなので)。だからちょっと書きづらい、ある意味「見切り発車」の文章だった。
その後実際に舞台を見た印象は5/12に書いた通りだが、前回投稿のフィンエアのカウンター同様、私の声が届き、問題点が「半年一昔」的にクリアされてるいることを期待しています☺☺☺


「ミュルミュル ミュール」名古屋公演 来る10月21日(水)


関連投稿
2014/5/19 チャップリン尽くし 親から子、子から孫へ、、、
2014/7/27 ジェームズ・ティエレのラウル
2015/5/12 ミュルミュル 英三の呟き


2015年10月8日木曜日

mes excuses

半年前(3/17)フィンランド航空のパリ、シャルル・ドゴール空港のカウンターに関してこう書いた:「近年ローバジェット航空会社と同じゲートになっており、これが明らかにぞんざいな客あしらいに影響していると思われる。フィンエアでパリに来られる日本の方は帰国便でショックを受けること間違えなしですので、事前に覚悟して行くように」
それが今回は列もなさずスイスイと。かつ前日に送られてきたインターネット・チェックインの時に有料シートを間違えてクリックしてしまい元に戻せなかったのでまた一悶着ありそうと思っていたのだが、こちらが言う前から「これだとヘルシンキで60ユーロ取られますよ」と気を利かせて質問してくれた。目を見張るサービスの向上! かつ日本行きは私のような格安チケットでも預け荷物二つが可能になったし、トランジットは短かくて速いし*、また別件でフェイスブックで質問した時、親身に答えてくれたしで、今やご推薦です。 
しかしこの「半年一昔」の大変化は?!?  私のブログの影響力大かと疑ってしまいますよ。

但し映画のチョイスはひどい。お陰でその分躊躇なく本が読めます。
(*注:勿論直行便にはかないませんが私の戻る名古屋へは経由便しかないのです)

それからカンタグレルトマト(8/26参考)、農家の直売野菜のおいしい南仏から戻った時には全く大したことはないと思ったのだが、高い値段で売っているパリの市場のトマトに比べて格段遜色がある訳でもなかった。ちょっと卑下しすぎた。

と言う訳でフィンエアにもカンタグレルトマトにも失礼致しました。

以上はほぼ出発日(9/15)に空港で搭乗を待ちながら書いた文。一昨日戻って驚いたことには、すっかり秋葉んだパリでトマトがまだ黄色い花を咲かせ、残った一つの実が赤みがかっていた(右写真)